追加情報 証拠文献①「龍/サタンは解放された」

「千年王国は終わっている説」の調査を本格的に始めてから約1年になりますが、このテーマは最近とても話題になっていると感じています。この説に否定的な人も多いですが、多くの場合、旧約聖書の預言が実現していないことを理由に挙げています。

私自身は、旧約聖書に書かれた完成された世界の描写は、千年王国のことではないと考えています。詳しくは「第4回 キリスト教会の千年王国についての解説は正しいのか?」や「追加記事 新天新地はいつやって来るのか?」で解説しています。

さて今回は追加情報として、1500年代に生きていた人たちが、「サタンは解放されたと考えていた証拠資料」を2つご紹介します。

「1073年に龍は千年の時を経て解き放たれた」と書かれたジュネーブ聖書

まずジュネーブ聖書に書かれていることを紹介します。ジュネーブ聖書の初版は1560年で、キング・ジェームズ聖書より約50年先行して発表された聖書で、この聖書には地図、表、挿絵、解説が多く含まれています。

黙示録の解説として「THE ORDER OF TIME:時間の順序」という項目があり、時系列で年代と起こった出来事が記されていました。(こちら からも参照できます。)

英文を書き出して日本語訳を付けました。「ドラゴン」と英語で書かれている箇所は「龍」と訳しています。ユダヤ教会とは初代教会のことです。また章が書かれているのは黙示録の章のことです。

時系列
1 AD The dragon watches the Church of the Jews, which was ready to travail: She brings forth, flees and hides herself, while Christ was yet on the earth.
西暦1 年:龍は苦難を覚悟したユダヤ教会を監視し、キリストがまだ地上におられる間に、教会は実を結び、逃げ、身を隠した

34 ADThe dragon persecutes Christ ascending to heaven, he fights and is thrown down: and after persecutes the Church of the Jews.
西暦34年: 龍は天に昇るキリストを迫害し、彼は戦って倒され、その後ユダヤ教会を迫害した。

67 ADThe Church of the Jews is received into the wilderness for three years and a half.
西暦67年:ユダヤ人の教会は、3年半荒野に受け入れられた。

70 AD When the Church of the Jews was overthrown, the dragon invaded the catholic church: all this is in the twelfth chapter. The dragon is bound for a thousand years in chapter twenty. The dragon raises up the beast with seven heads, and the beast with two heads, which make havock of the catholic church and her prophets for 1260 years after the passion of Christ in (Rev 13:11).
西暦70年 ユダヤ教会が打倒されたとき、龍がカトリック教会に侵入した。これはすべて第 12 章に書かれている。 龍は20章では千年間縛られることとなる。 龍は七つの頭を持つ獣と、二つの頭を持つ獣を起こした。これらはキリストの受難以来1260年間、カトリック教会とその預言者たちを苦しめた(黙示録13:11)。

97AD: The seven churches are admonished of things present, somewhat before the end of Domitian his reign, and are forewarned of the persecution to come under Trajan for ten years, chapter 2,3. God by word and signs provokes the world, and seals the godly in chapter 6 and 7. He shows examples of his wrath on all creatures, mankind excepted in chapter 8.
西暦97年 7つの教会は、ドミティアヌス帝の治世が終わる少し前に、当面することについて警告を受ける。そして、トラヤヌス帝による10年間にわたる迫害について予告される。(第2章、第3章)
神は言葉としるしによって世界を扇動し、第6章と第7章で敬虔な者たちを封印する。神は第8章で、人類とすべての生き物に対する怒りを示す。

1073 AD: The dragon is let loose after a thousand years, and Gregory the seventh, being Pope, rages against Henry the third, then Emperor in chapter 20.
西暦1073年 龍は千年の時を経て解き放たれる。第20章では、教皇であるグレゴリウス7世が、当時皇帝だったハインリヒ3世に対して激怒する。

1217 AD: The dragon vexes the world for 150 years to Gregory the ninth, who wrote the Decretals, and most cruelly persecuted the Emperor Fredrick the second.
西暦1217年 は法令を書いたグレゴリウス9世まで、150年間世界を悩ませる。皇帝フレデリック二世を最も残酷に迫害した。

1295 AD: The dragon kills the prophets after 1260 years, when Boniface the eighth was Pope, who was the author of the sixth book of the Decretals: he excommunicated Philip the French King.
西暦1295年 1260年ぶりに龍が預言者を殺す。このとき、ボニファティウス8世は法王であり、法王の第6巻の著者であった。彼はフランス王フィリップを破門した。

1300 AD: Boniface celebrates the Jubile.
西暦 1300 年、ボニファティウスがヨベルの年を祝う。

1301 AD: About this time was a great earthquake, which overthrew many houses in Rome.
西暦 1301 年 この頃大地震が発生し、ローマの多くの家が倒壊した。

1305 AD: Prophecy ceases for three years and a half, until Benedict the second succeeded after Boniface the eighth. Prophecy is revived in chapter 11. The dragon and the two beasts question prophecy in chapter 13. Christ defends his Church in word and deed, chapter 14, and with threats and arms, chapter 16. Christ gives his Church victory over the harlot, chapter 17 and 18. Over the two beasts, chapter 19. Over the dragon and death, chapter 20. The Church is fully glorified in heaven with eternal glory, in Christ Jesus, chapter 21 and 22.
西暦1305年 ボニファティウス 8 世の後にベネディクト 2 世が継承するまで、預言は 3 年半中断された。預言は第 11 章で復活する。龍と二匹の獣は第13章で預言に疑問を呈する。キリストは第14章で、言葉と行為によって教会を擁護し、第16章では恐れと戦いによって教会を擁護する。大淫婦に対してキリストが教会に勝利を与える。(17章と18章)第19章は二匹の獣について。 第20章は龍と死について。教会はキリスト・イエスにおいて、天において永遠の栄光をもって完全に栄光を受ける。(21章と22章)

この文献には「西暦1073年 龍は千年の時を経て解き放たれる」と書かれていました。西暦97年から西暦1073年まで、まったく記述がありませんが、この期間が千年王国であると考えていたと思われます。

先述したように、このジュネーブ聖書の初版は1560年です。私たちが明治時代や大正時代、それ以前のことをほとんど知らないように、16世紀に生きた当時の人たちにとっても、聖書の出来事ははるか昔の出来事であり、人々の理解を助けるために年表が書かれているのだろうと思われます。「千年が過ぎて龍が解き放たれた」ことは、歴史的事実として、当時の人々に認識されていたのです

ジュネーブ聖書は発禁になった

このジュネーブ聖書から約50年遅れて、キング・ジェームス聖書(欽定訳聖書)が1611年に発売されました。キング・ジェームス聖書の制作を依頼したのはジェームズ1世ですが、先に出版された「ジュネーブ聖書を禁止した」ことがよく知られています。

第12回の「よくある質問」でも紹介していますが、キング・ジェームス聖書のジェームス1世はフリーメーソンだそうです。また1611年初版のキング・ジェームス聖書は、フリーメーソンの聖書として、現在でもフリーメーソン寺院の儀式で使用されていると書かれています。

※注意:キング・ジェームス聖書は翻訳がとても良いことで知られていて、世界中で一番多く読まれている聖書でもあり、キング・ジェームス聖書自体はとても素晴らしい聖書だと考えています。

なぜジュネーブ聖書が禁止されたのか、解説がありましたので紹介します。

伝説のジュネーブ聖書が発禁になった理由

米国大統領が、あなたのバージョンの聖書を、自分の統治に対する脅威であると考えて、非合法化した場合を想像してみてください。

代わりに政府が「承認した」新しいバージョンを、あなたが読めるように彼が許可したと想像してみてください。

まさにそれが、1611 年の激動の年に起こったのです。

ジェームズ王は革命的で扇動的なジュネーブ聖書を嫌いました。

ジェームズ王は、重要な政治文書に関するジュネーブ聖書の研究ノートが、自分の権威を脅かすと考え、それを非合法化し、聖書の新しい翻訳、つまりキング・ジェームス聖書を発注しました。

キング・ジェームズ訳は優れた翻訳ですが、政府によって編集および認可されています。

ジュネーブ聖書はそうではありませんでした。

まさに民衆による民衆のための聖書でした。

ジュネーブ聖書は他の聖書の中でも独特です。

これは章と節番号が付けられた最初の聖書であり、広範な研究ノートにより、当時最も人気のある聖書でした。

Why The Legendary Geneva Bible was Bannedより

別のサイトでは、「ジェームズ1世はジュネーブ聖書を嫌い、その理由は注釈が付けられていたことが原因だった」とも書かれていました。なにしろ注釈には、「千年王国は終わって龍が解放された」ことが書かれているのです。

このような注釈があれば、イエズス会やフリーメーソンが言い出した「未来にキリストが再臨して千年王国がやって来る」という教えが成り立ちません。そこで注釈が書かれていない新しい聖書を製作して、ジュネーブ聖書を禁止したのではないかと思われます。

ちなみに『イエズス会の究極の誓い』が日本語で紹介しているサイトがありました。イエズス会とは単にキリスト教の宗派ではありません。彼らの正体を理解せずに、この世界で起こっていることは理解できないと考えています。

「サタンが解放されてからの300年間」を収録したフォックスの殉教者の書

二つ目の文献について、こちらの動画 で興味深い書物について紹介されていたのでご紹介します。
この動画で紹介されていたのは、Foxe’s Book of Martyrs:(フォックスの殉教者の書)という1583年の本でした。英語版のPDFのダウンロードはこちらから できます。ウキペディアにもこの著書のページ があります。この本の日本語訳はありませんが、内容はクリスチャンに対する迫害について書かれています。

Foxe’s Book of Martyrs:(フォックスの殉教者の書)

PDFを開けると冒頭に目次のページがあます。「CONTINUATION OF BOOK V(5の本の続き)」と書かれています。
その下には「CONTAINING THE LAST THREE HUNDRED YEARS FROM THE LOOSING OUT OF SATAN」と書かれています。「サタンが解放されてからの 300 年間を収録」という意味になります。1377年から1422年までの出来事の項目とページ番号があります。

さらにページを進めると「CONTINUATION OF BOOK VI(6の本の続き)」の項目があり、そこにも「PERTAINING TO THE LAST THREE HUNDRED YEARS FROM THE LOOSING OUT OF SATAN」「サタンが解放されてからの過去 300 年間に関するもの」という言葉があります。こちらの項目には、1422年から1483年までの出来事の項目とページ番号が書かれています。タイトルに書かれているように、「サタンが解放されてから起こった出来事」を紹介している本なのです。

著者のジョン・フォックスは、1516年に生まれて1587年に死亡したとされる人物です。この著書の中では、1324年にサタンが解放された年であると計算していました。この本自体は千年王国を研究している人たちの間では、あまり信用できないという意見がありました。

しかしながら注目すべき点は、この時代に生きた人が、「キリストの千年王国は終わってサタンは解放されたと堂々と書いていた」ということです。この時代の直前には、厳しい異端審問があったことになっていますので、当時の聖書理解から、逸脱していなかっただろうと思われます。

つまり、1500年代に生きていた人たちは、「キリストの千年王国は終わってサタンは解放された」と、当然のように考えていたのです。

今までの話とつじつまが合わないのでは?

今回紹介した文献では、1073年と1324年がサタンが解放された年として書かれています。以前に、「サタンが解放されたのは1770年ごろ説」を紹介していますので、今回紹介した文献については「つじつまが合わないではないか!」と言われるのではないかと思います。

さらに「サタンが解放されるのは少しの間(little season)と書かれているのに、すでに1000年ほど経っているではないか!」という意見や、「千年の歴史を追加しているのはどうなったのか?」などの意見があると思います。わたしもいろいろ調べていますが、歴史が改ざんされていると考えられるので、本当の歴史を知ることは難しいと思っています。

「ジュネーブ聖書」と「フォックスの殉教者の書」の2つの文献は、公開された日付がたった23年しか違わないのですが、サタンが解放された時期が300年ずれています。2つの文献を見比べると、英語の文体や仕上がりには明らかに歴史的な差があることがわかります。

ウキペディアのジュネーブ聖書の解説を読むと、「各巻の序文、地図、表、挿絵、傍注、一つの語句から複数の関連する聖句を参照可能にした、いわゆる「スタディバイブル」の先駆けでもあった」と書かれています。さらに「英語訳聖書ではジュネーヴ聖書において、初めて節番号(verse)によるさらなる細分化が行なわれた」ということで、ジュネーブ聖書は発表されるまで、大変時間をかけて準備されたのではないかと思われます。

つまりジュネーブ聖書は1560年に発表されましたが、かなり昔から執筆されて準備されていた文献ではないかと思われます。

ちょうど1500年代に、グレゴリオ暦が導入され、イエズス会が登場し、 イエズス会士のスカリゲルなどによって歴史の改ざんが本格化したと言われる時代ですので、「ジュネーブ聖書」と「フォックスの殉教者の書」の制作に関わった人たちには、歴史の見解に相違があったのではないかと考えています。

「未来にキリストが再臨する」考えが登場したのは16世紀

第10回のイエズス会の「未来派」と「携挙」と「シオニズム」でも解説していますが、「未来にイエスが再臨して、教会は携挙され、千年王国が始まる」という教えは、イエズス会士のフランシスコ・リベラ(16世紀)から始まっています。

その教えは、同じくイエズス会士だったマヌエル・ラクンザ(18世紀)へと受け継がれ、 さらにエドワード・アーヴィング(19世紀)が広めました。そしてジョン・ネルスン・ダービ(19世紀)が、秘密携挙の教えを合体させて完成させました。

出来上がった「患難前携挙説」の教えが、サイラス・スコフィールド(19世紀)が制作した「スコフィールド聖書」の注釈に書かれ、世界中で販売され、牧師たちがキリスト教会で教えました。

患難前携挙説の教えや、未来にイエスが再臨するという教えは、キリスト教会のスタンダードな教えとなっていますので、「千年王国は終わっている」説を語ると、トンデモ扱いをしたりあざ笑う人が多いです。

しかしながら16世紀までは、一般に信じられていた考えだったのです

歴史を考えてみると、ローマ皇帝コンスタンティヌス大帝の治世中に、ローマはキリスト教に改宗して、キリスト教が拡大したことになっています。

ガリラヤの小さな田舎町のナザレ出身だったイエスの教えが、多くの国々で広められ、国教となり、荘厳な教会が建てられました。

キリスト教はヨーロッパの各地に広まり、キリスト教を受け入れた国々は、「キリスト教世界」または「キリストの王国」と呼ばれました。

そして16世紀まで、人々は「1000年の時代が過ぎてサタンは解放された」と考えていたのです。